Quantum Molecular Science: Theory and Simulations

量子分子科学への誘い

量子分子科学は,普遍的なミクロの物理学にもとづいて個別的で多様な物質科学を理解しようとする学問です.皆さんは化学の暗記事項に閉口した経験がないでしょうか.高校時代の私は有機電子論という一応の理屈に巡りあうまで化学に悩まされました.化学の世界では膨大な実験データを整理する経験則が伝統的に重視されてきましたが,量子力学の発展とともに大きな転換点を迎えています.いまや化学,さらには生物学の多くの現象が物理的な思考の延長線上に,言いかえれば数少ない原理・モデルから説明できるようになりつつあります.周期表のたかだか百数十種類の原子から,かくも多様な自然現象がどうやって生まれるのでしょうか?

  私たちのごく身近な現実の奥底に,無数の原子核・電子集団が織りなす量子力学の世界がある.そう考えると,今までほとんど当たり前だった現象すべてが,量子多体系ならではの面白さと奥深さ,意外性を備えた問題に様変わりして見えます.それは,物理学を学んだ大学生が身近な物質や現象を深く考えて初めて生まれる問題意識であり,また量子力学や統計力学等の現代的な理論手法を駆使してようやく探求できるチャレンジングな問いなのです.

  当研究室では,ミクロの量子状態が柔軟に変わることで発現するマクロの機能に着目し,量子力学や統計力学等の理論を総動員して物質の世界を探求しています.研究室では自由な学究の場を提供します.研究に没頭し仲間と活発に議論するのはもちろん,ときに専門外の勉強をしたり,教員の言いなりにならず主体的に研究方針を定めて欲しいと思います.研究は挑戦と失敗の連続です.青写真どおりに進むことはまれで,私の与えるアイデアもアドバイスも実際に試してみるとことごとく失敗するかもしれません.しかしだからこそ面白いし,自分のアイデアでついに良い結果を得たとき,あるいは予想だにしない結論にたどり着いたとき,何事にも代えがたい達成感があります.化学やプログラミングの予備知識は問いません.物理学の理論をたよりに身の回りの物質の世界を探求したい人を歓迎します.

研究室見学

有機から無機,高分子,生体まで 幅広い物質群が研究対象です.興味のある方は気楽に居室に来てください(理学部4号館3階C308号室).アポ無しも歓迎ですが,事前に メール をもらえれば確実です.研究・教育体制の概要は こちら です.